「暮らしを楽しくする場所をつくりたい」 ——あわらの電気屋が、カフェと地域の居場所になるまで - あわら市観光協会

「暮らしを楽しくする場所をつくりたい」 ——あわらの電気屋が、カフェと地域の居場所になるまで

2026.07.07

長年、あわらで“まちの電気屋”として地域の暮らしを支えてきたダイデンさん。娘さんのUターンをきっかけに店舗を大きくリニューアルし、カフェを併設した「暮らしを楽しむ電気屋」へと生まれ変わりました。都会的な感性を取り入れながらも、この場所に流れているのは、あわららしい穏やかな時間と、人との距離の近さ。今では、地元の人はもちろん、観光客や移住希望者まで、さまざまな人が自然と集まる場所になっています。 今回は、“暮らし”をテーマに地域の可能性を広げる大井佳名子さんに、あわらという土地の魅力と、この場所に込めた想いを伺いました。

津田
「電気屋にカフェを併設する」という発想は、どんなところから生まれたのでしょうか?

大井さん
うちの家業は、もともとお土産物屋から始まっているんです。石川県からあわら温泉に流れてきた家系で、温泉街が賑わっていた時代と一緒に商売をしてきました。
その後、芦原大火をきっかけに祖父が電気屋を始めて、ラジオ修理から旅館設備、家庭用家電へと仕事が広がっていったんです。
父の代では、“まちの電気屋”として地域の暮らしを支える存在になっていました。でも、私の代になる頃には高齢化も進み、お客さんも少しずつ減っていて。
最初から「電気屋を継ぐ」という感覚ではなくて、「この場所をどう生かせるだろう」と考えていました。駅前という立地も含めて、閉じてしまうにはもったいないと思ったんです。

津田
「その頃、地域の空気感として感じていたことはありましたか?」

大井さん
すごく感じていたのは、“暮らしそのものが疲弊している”ということでした。
高齢のお客さんのお宅へ行くと、「線が抜けただけなのに不安で電話してしまう」とか、「今日、誰とも話していない」といったことが本当に多いんです。介護で疲れ切っているご家族もいました。
毎日の暮らしが、“楽しむもの”ではなく、“こなすもの”になってしまっているように感じたんです。
だからこそ、ただ家電を売るだけではなく、「暮らしを少し前向きにできる場所」が必要なんじゃないかと思いました。

津田
「電気屋」と「カフェ」、役割の違う二つの場ですが、それぞれをどんな存在として考えていますか?
また、“用事がなくても来ていい場所”をあえて電気屋の中につくった理由を教えてください。

大井さん
電気屋は、地域の安心や安全を支える場所だと思っています。困った時に頼れる、暮らしのインフラに近い存在ですね。
一方でカフェは、“用事がなくても来られる場所”。
電気屋って、普通は何か壊れたり、買い替えたりしない限り行かない場所じゃないですか。でもカフェがあることで、「ちょっとコーヒーを飲みに来た」が自然に成立するようになったんです。 それは想像以上に大きかったですね。 家電って、本来は暮らしを豊かにするためのものだと思うんです。でも量販店では、どうしても価格やスペックが中心になってしまう。 私は、“その家電が家にあったら、どんな暮らしになるか”を想像できる場所をつくりたかったんです。コーヒーを飲みながら本を読んだり、人と話したりする中で、「こういう暮らし、いいな」と感じてもらえたら嬉しいですね。

津田
実際に二つを組み合わせてみて、想定外に生まれた価値はありましたか?

大井さん
正直、ここまで人が集まるとは思っていませんでした。 カップルが来たり、観光客が来たり、アーティストや移住を考えている人が来たり。以前は、おばあちゃんが電池を買いに来るくらいだった場所に、今は“会話”をしに人が来てくれるんです。 それが一番大きな変化ですね。

津田
「売る」より、「暮らしを楽しむ」を伝えたいという想いが、ワークショップの開催にもつながっているのでしょうか?

大井さん
ありますね。
料理教室、お花、ヨガ、手芸、味噌づくり、野草など、本当にいろいろやっています。でも共通しているのは、「暮らしが少し楽しくなること」。 家電と直接関係がなくても、気持ちが前向きになることは全部つながっていると思っています。
例えばホットクックを実際に使ってもらうと、「こんなにラクになるんだ」と驚く方が多いんです。家電って毎日使うものだからこそ、人生への影響が大きい。 それに、体験を通して人って少し元気になるんですよね。
料理教室やお花のワークショップに来ると、みんな一瞬“自分自身”に戻るんです。「私、本当はこういうの好きだったな」って。その感覚を取り戻せることが、すごく大事だと思っています。

津田
“まちの電気屋”から、“まちの居場所”へ。お店を通じて、地域との関係性は変わりましたか?

大井さん
すごく変わりました。 今は、お店というより“地域の寄り合い所”みたいになっています。イベントの相談をしたり、「今度こんなことやろうよ」と自然に話が生まれたり。 コーヒーがあるだけで、人ってこんなに話すんだなと思いました。
あわらって、“流れてきた人の町”なんですよね。 温泉ができ、人が集まり、それぞれの人生を始めてきた場所。だからなのか、外から来た人を受け入れる空気があると思います。 農家さんがメロンを持ってきて、それを見たパティシエが新しいケーキを作る。観光客が来て、そこからまた新しいつながりが生まれる。 そういう偶然の連鎖が、とても起きやすい町だと感じています。

津田
この場所は、あわらにとってどんな意味を持つ場所になっていると思いますか?

大井さん
“発想を広げる場所”ですね。
暮らしって、本当はもっと自由でいいと思うんです。でも、多くの人が「今まで通り」の中で止まってしまう。 ここでコーヒーを飲んだり、人と話したり、新しい体験をしたりすることで、「こんな暮らし方もあるんだ」と感じてもらえたら嬉しいです。 お客さん同士の交流もすごくあります。 料理教室で隣になった人同士が仲良くなったり、「昔ママ友だった!」と再会したり。観光客と地元の人が話していることもあります。
“何かを買う場所”というより、“人と出会う場所”になっているのかもしれません。

津田
この場所を通して見えてきた、“あわららしさ”とは何でしょう?

大井さん
個性的なお店や人が、実はすごく多いことですね。
観光客の方に「おすすめありますか?」と聞かれることも多いんですが、あわらって、表面的には見えにくい魅力がたくさんあるんです。静かで、余白があって、少し肩の力を抜いて暮らせる。 都会みたいな刺激の多さはないかもしれません。でも、“自分らしい暮らし”を考えるには、とてもいい町だと思っています。

津田
これから、この場所をどんな場所に育てていきたいですか?

大井さん
もっといろんな人が、自分の“好き”を表現できる場所にしたいです。 今は私たちが中心になっていますが、本当は地域の人たちが主役になって、「これ楽しいから伝えたい」がどんどん増えていくといいですよね。

津田
今後、挑戦してみたいことはありますか?

大井さん
空き家や移住にも興味があります。
最近、「ここで暮らしてみたい」と言ってくださる方が増えてきたんです。だから家電だけではなく、“あわらでの暮らしそのもの”を提案できたら面白いなと思っています。 電気屋って、少し入りづらいイメージがあるかもしれません。でも、ここは“用事がなくても来ていい場所”です。 コーヒーを飲むだけでもいいし、誰かと話すだけでもいい。 暮らしを少し前向きにする場所として、気軽に立ち寄ってもらえたら嬉しいですね。 安心して暮らせることと、新しい発想が生まれること。その両方があることで、人は元気になれると思っています。

おわりに
ダイデンライフは、単なる“リノベーションされた電気屋”ではなかった。 家電やコーヒーを入り口にしながら、「暮らしをどう楽しむか」を地域に問いかける場所だった。そしてそこには、あわらという土地が持つ“受け入れる力”が自然に滲んでいる。 印象的だったのは、「あわらは流れてきた人を受け入れてきた町」という言葉だ。温泉地として多様な人を迎えてきた歴史が、今もまちの空気として息づいている。 便利さや効率だけではなく、人と話すこと、少し立ち止まること、自分らしい暮らしを考えられる余白があること。それこそが、これからの時代における“あわらの価値”なのかもしれない。

  • 記事