あわら温泉の街角本屋~地域と紡ぐ物語の記録~
2026.11.04
福井県あわら市の温泉街近くに店を構える「高橋尚文堂」。デジタル化が進み、全国で書店が減少する中、この店は単なる本屋という枠を超え、多世代が集う地域のハブとして新たな輝きを放っています。店主の高橋美智子さんに、書店の歴史から地域への熱い思いまでお話をお聞きしてきました。

津田 まずは、高橋尚文堂の成り立ちについて教えてください。
高橋さん
元々は温泉街の中、現在の北陸銀行さんの隣あたりに店舗がありました。 創業当初は新聞販売店だったのですが、時代の流れに合わせて書店へと変化していき、昭和60年(1985年)に現在の場所へ移転しました。かつてはレンタルビデオも扱っていた時期もあり、常にその時代のニーズに応えながら形を変えてきた歴史があります。
私は、岩手県から 21年前に嫁いできました。当時は夜10時まで営業していて、仕事と家事の合間にソフトボールを続けるという、今思えばかなりハードな生活でした。私自身も夫も体育会系なので、「気合でやっていこう」という精神は今も店の運営に活きているかもしれませんね
津田 最近は書店を取り巻く環境も厳しいと言われていますが、手応えはいかがですか?
高橋さん
確かに厳しい時代ですが、最近は児童書がよく売れています。デジタル化が進みすぎた反動で、特に教育に熱心な親御さんの間では、成長段階の子供をデジタルからてきるだけ離して、アナログな本に触れさせたいというニーズが高まっているんです。
AI が過去のデータから答えを出す時代だからこそ、人間が深く考えたり、未来を想像したりする力が必要と考えます。私自身も、スマホで文字を読み続けると違和感を覚えることがあり、「やっぱり本のようにアナログで読みたい」と感じます。本の匂いや手触りそのものが、子供たちにとっても豊かな体験になると信じています。

おはなし会の様子
津田 美智子さんが特に力を入れている「ちょっと変わったおはなし会」について詳しく教えてください。
高橋さん
ただ本を読むだけでなく、「テーマにそった読み聞かせ+体験」をセットにしたイベントです。学校のような「静かに聞く」スタイルではなく、子供たちが読み聞かせに興味を持ってもらいながら体験や工作などをする事で学びに深さを持たせていきたいと考えています!!
津田 具体的にはどのような「体験」をされているのですか?
高橋さん
本を読むだけでなく、五感を使っての工作や実験、地元地域の方に一緒に参加していただき繋がるキッカケになるように工夫したりしています!
例えば、地元の農家「グリーンファーム角屋」さんとの連携。ちょうど、間違って印刷してしまった米袋が 1,000 枚もあると相談を受けたんです。それを無駄にせず、工作に使えないかと考え、レンコンの断面をスタンプにして「鬼の衣装」を作るという企画を立てました。本物の野菜に触れながら「物事が出来上がっていく過程」を体験してもらう。これは、ただ本を眺めるだけでは得られない「生の学び」になります。
また、茶道講師の後藤さんをお招きした時は、読み聞かせのあとに実際に抹茶を点てて飲む体験をしました。子供たちが伝統文化を「自分たちの日常」として楽しむ姿は本当に好評でした!
津田 地域の「人」とのつながりが、そのまま子供たちの体験になっているのですね。現在は強力なパートナーもいらっしゃると伺いました。
高橋さん
はい、元小学校教師の立尾さんです。彼女は元々、お子さんと一緒にお客さんとして通ってくださっていたのですが、参加者なのにこちらが驚くほど積極的に準備を手伝ってくださって(笑)。その本への凄まじい情熱と、溢れんばかりのパワーに惹かれて「一緒にやりませんか?」とダメ元で声をかけたのがきっかけです。
岐阜からあわらにお嫁に来られたのですが、とにかく前向きで、何の気負いもなく「やりたい!」という意欲が全身から伝わってくる。
そのパワフルさには、私の方が圧倒されるくらいです。現在は市内の小学校で働いていらっしゃいますので、その経験を生かしていただき、プロの教育者としての視点を企画に注ぎ込んでくれています。
津田 美智子さんとの相乗効果もすごそうですね。
高橋さん
私たちの相性は抜群だなと思います!二人で常に新しい企画を考えて、この後のためにも「ネタ帳」を作り込んでいるんです。もし一つの案が行き詰まっても、次に出せるように「保険」のネタまでストックしています(笑) 。彼女のような熱い人と一緒に企画を練っていると、「考えの相乗効果が止まらず、良い方向に行く予感しかない!!」と叫びたくなるほどワクワクするんです。
私の「気合」と、彼女の持つ「専門知識と弾けるようなパワー」が合わさることで、お話会はどんどんグレードアップしています。この二人の熱量が子供たちにも伝わって、あわらでの時間が一生の思い出になってくれたら最高ですね。

体験・工作の様子
津田 書店が地域で果たしている役割についてはどうお考えですか?
高橋さん
私たちは「地域密着型書店」を自認しています。本だけでなく、買い物に困っている高齢者のために地元の野菜を置いたり、子供たちが気軽に寄れるよう駄菓子を置いたりと、生活の拠点でありたいと思っています。書店が「あわらでの楽しさ」を教える場所になっていくといいなと思っています。「あわら温泉春まつり」の伝統を絶やさないために、店に来る子供たちにお囃子や山車引きを積極的に勧誘したりもしています。
グランディア芳泉の若旦那たちが頑張って温泉街を盛り上げようとしているように、私たちも「あわらは子育てに特化した、楽しい場所」というイメージを形にしていきたい。子供たちが地元を愛し、学生や大人になっても地元の祭りに戻ってきてくれるような、そんな「心の故郷」としての本屋であり続けたいと思っています。
津田 美智子さんから見た「あわら温泉」の魅力は何でしょうか?
高橋さん
足湯が最高です!温度が違ったり泡が出たり、高校生が「たまり場」にするほど居心地が良いんですよ。それと、夏に海がプールのような感覚ですぐそこにある贅沢さ。この素晴らしい環境を、もっと多くの人に知ってほしいですね。足湯のような屋外での「出張おはなし会」が実現できたら嬉しいです!良い季節になったら、夕方の心地よい風の中で読み聞かせができたら最高ですよね。通りすがりの方が参加していただき、魅力を体感してほしいです。
津田 最後に、今後の展望をお聞かせください。
高橋さん
うちは建物自体は古いですが、それを逆手に取って、高校生に考えてもらった「宝探しゲーム」や季節ごとのシルエットクイズなど、店内に一歩足を踏み入れるだけでワクワクする仕掛けをこれからもどんどん続けていきたいです。本を売るだけでなく、「あ、この店面白いな」と滞在そのものを楽しんでいただきたい。また地元街の魅力を本屋がハブとなって「ここは最高に楽しい場所なんだ」と肌で感じてもらいたいです。観光で来られた方も、ぜひアンテナを広げてこの街の良さを覗きに来てください。本を通じて地域に愛着を持ってもらえるよう、これからも攻めの姿勢で頑張ります!
またにはうちの店で文庫本でも手に取って、「ひと休み」していってください。本を販売する場所にとどまらず、人と人、そして地域の未来をつなぐ拠点として、新たな役割を育んでいます。

おわりに
高橋尚文堂への取材を通して感じたのは、本を販売するだけではなく、人と人、地域と未来をつなぐ「まちの居場所」としての存在感でした。子どもたちの笑顔を育む読み聞かせや体験活動、地域の人々との連携には、「あわらをもっと好きになってほしい」という高橋さんの熱い思いが込められています。本をきっかけに新たな出会いや学びが生まれるこの場所は、これからも地域に寄り添い、多くの人に愛され続けることでしょう。
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