果樹園から広がる、天然酵母のある暮らし ― あわらで叶えた夫婦のセカンドライフ - あわら市観光協会

果樹園から広がる、天然酵母のある暮らし ― あわらで叶えた夫婦のセカンドライフ

2026.09.07

愛知県からあわら市へ移住し、奥様の実家の果樹園を受け継ぎながら、自家製フルーツ酵母のパンを焼き続け るご夫婦。果樹園で育つ柿やさまざまな果物を酵母やパンづくりに生かし、地域の恵みを大切にした暮らしを実践しています。理論派のご主人と感性豊かな奥様が力を合わせて営む「果樹園のパン屋」。そんなお二人に、移住のきっかけやパンづくりへの想い、あわらで描く未来についてお話を伺いました。

津田 本日はよろしくお願いします。まず、愛知県から奥様のご実家がある、あわら市に戻ってこられた経緯を教えてください。

伊藤さん(奥さん)
2024年に戻ってきてパン屋を始めました。その準備として2022年から実家をリフォームをはじめて、2023年に完成!愛知にいた頃からパン作りに興味があって、パン教室に通ったり、パン屋さんでバイトをしたりしていました。でも、大手だと「製造」に携わることが難しくて。自分でお店をやるなら、実家の果樹園にあるフルーツを使って「天然酵母(フルーツ酵母)」のパンを作りたいという思いがずっと種火のようにあったんです。

伊藤さん(ご主人)
僕は三重県の出身で、以前は全く違う職種で働いていました。定年退職のタイミングで、妻の「パン屋をやりたい」という願いを叶えるべく、一緒にあわらへやってきました。

津田 ご主人は農業やパン作りに抵抗はなかったのですか?

伊藤さん(ご主人)
全くなかったですね。僕は理系で、野菜作りや農業は「化け学(化学)」だと思っているんです。どう応用できるかを考えるのが楽しくて、以前からJAの家庭菜園教室で2、3年勉強もしていました。パン作りも、ハード系のパンはすべて手ごねです。機械では出せない生地の状態を感じながら仕上げるので、力のいる工程は私が担当しています。私は理論や数字を考えるのが好きで、妻は感覚を大切にするタイプ。お互いの得意分野が違うからこそ、いいパンが焼けているんだと思います。

農園(柿畑)での様子

津田 お二人の役割分担が絶妙ですね。

伊藤さん(奥さん
本当に「磁石のプラスとマイナス」みたいに真逆なんです(笑)。私は感覚で生きているタイプなので、主人が数字や理論の部分を支えてくれるからこそ、パンが焼けているんだと思います。

津田 あわら市、そしてこの「果樹園」という環境の魅力はどこにありますか?

伊藤さん(奥さん)
何と言っても、自分たちの手で育てた果物を贅沢に使えることです。実家にはメインの柿が100本ほどあるほか、ブルーベリー、桃、ぶどう、りんご、梨など、ありとあらゆるものがあります。以前は近所に配るだけだった「規格外」の果物も、今はドライフルーツにしたり、パンの酵母にしたりして活用しています。

津田 100本もの柿の木を維持するのは、とても大変そうですね。果樹園だからこそできるパンづくりの魅力や、こだわりを教えてください。

伊藤さん(ご主人)
正直、かなり大変ですよ。収穫の時期になると、柿を採るだけじゃなくて、ドライフルーツや柿酢づくりなど加工も重なるので、一年で一番忙しい時期になります。「人生の楽園」のように見えるかもしれませんが、実際は体力勝負の毎日です(笑)。 でも、その苦労があるからこそ、この景色や季節の移り変わりを楽しめるんですよね。規格外もでてしまうのですが、以前は近所に配ったり、それでも余ったものは畑に返したりしていました。でも、「何かに生かせないかな」と考えて始めたのが、ドライフルーツや天然酵母づくりです。
形は少し悪くても、味はとてもいい。果物が新しい形でパンに生まれ変わることで、無駄なく使い切れるようになりました。
一般的には「種」を育てながらパンを作ることが多いですが、私たちは果物から作った酵母液をそのまま生地に使っています。酵母液を作るのに4~5日、パンが焼き上がるまでさらに2日ほど。時間はかかりますが、その分、果物本来の自然な甘みや香りをしっかり感じてもらえるパンになります。

自宅農園収穫の果物と自家製酵母菌

津田 お二人が大切にしていることは何でしょうか。

伊藤さん(奥さん)
「数は追わない」ということです。たくさん作ろうと思えば作れるかもしれませんが、それでは私たちが納得できる味になりません。一つひとつ丁寧につくり、「また食べたい」と思っていただけるパンを届けることを大切にしています。この果樹園だからこそ生まれる味を、これからも変わらず届けていきたいですね。

津田 遠方からもお客様が訪れるそうですね。

伊藤さん(奥さん)
あわら温泉に宿泊された方が立ち寄ってくださることも多く、本当にありがたいですね。金沢や富山など県外から足を運んでくださる方も増えました。
特別なことをしているというより、一つひとつ丁寧につくることを大切にしているからでしょうか。数は追わず、自分たちが納得できる味だけを届けたい。その積み重ねがお客様に伝わっているのかもしれません。

店内の様子

津田 パン屋を始めてから、地域とのつながりにも変化はありましたか。

伊藤さん(ご主人)
すごく変わりました。犬の散歩がきっかけで近所の方と話すようになったり、道の駅や市役所で販売する中で新しい出会いも増えました。
都会では隣の人の顔も知らないことが多かったですが、ここではパンを通して人と人が自然につながっていく。それが、この土地の一番の魅力かもしれません。

津田 苦労も多い中で、それでも続けたいと思える理由は何ですか。

伊藤さん(奥さん)
大変なこともたくさんあります。でも、自分たちが育てた果物がパンになって、お客様が「おいしい」と笑顔になってくださる。その瞬間に苦労が報われる気がします。この果樹園だからこそできるパンづくりを、これからも大切に続けていきたいですね。
この景色も含めて、この場所の魅力ですね。ここで焼くパンには、この土地の恵みや景色、人とのつながりがそのまま詰まっていると思っています。

津田 これからの「野望」や、やってみたいことはありますか?

伊藤さんご夫婦
一番の目標は、いつか『人生の楽園』に出演することです。私たちにとっては、これまで積み重ねてきた歩みを認めてもらう一つの節目であり、これから先へ進むための目標でもあります。
それと、駐車場の前の田んぼにお花を植えて、お花畑の中を新幹線が走り抜けるような景色をつくりたいんです。夜になると、ここから見える新幹線の窓の明かりが連なって、本当に「銀河鉄道999」のようにきれいなんですよ。

私たちが目指しているのは、パンを売るだけのお店ではありません。年齢に関係なく、地域の人も、遠くから来てくださる方も、ふらっと立ち寄って笑顔になれる「みんなの寄りどころ」のような場所にしたいと思っています。
この場所に来ることで、「楽園に来たような気持ちになれる」。そんな空間を、このあわらの豊かな自然の中で育てていくことが、私たちの一番の夢ですね。

 

おわりに
理論で支えるご主人と、感性で彩る奥様。
お二人がつくり出すやわらかな空気は、そのまま天然酵母のパンの味わいへと息づいていました。あわらの豊かな自然、そして夜空を駆ける新幹線。
この場所には、訪れる人の心をそっとほどき、笑顔を育てる「楽園」の種が、確かに息づいていました。

 

 

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