素材の力と、飾らない“おもてなし” ―ブルーベリー農園カフェ「瑞香園」―
2026.05.28
福井県あわら市ののどかな風景の中にある、ブルーベリー農園カフェ「瑞香園」。
自家栽培のブルーベリーを使ったスイーツやドリンクを楽しめるほか、摘み取り体験や動物とのふれあいもできる、地域に根ざした場所です。
素材そのものの味を大切にしながら、肩肘張らない接客で人を迎える瑞香園。今回は、オーナーの内田さんに、お店を続けてきた歩みや、この場所に込めている思いについて伺いました。
津田
まずは、瑞香園が始まったきっかけを教えてください。
内田オーナー
ブルーベリーの栽培自体は、もう45年くらい続いているんです。もともとは収穫して出荷したり、ブルーベリー狩りをしてもらったりする、いわゆる農園でした。
ただ、自分が後を継ぐタイミングで、「ここで採れたものを、その場で味わってもらえる場所があったらいいな」と思うようになって。せっかく丁寧に育てているので、一番おいしい状態で届けたいという気持ちが強かったんです。
それに、この地域にはブルーベリー以外にも、本当に質のいい果物や野菜がたくさんあります。そういう“地元のいいもの”を知ってもらえる場所にもなれたらと思って、お店を続けています。

津田
初めて来た人に、ぜひ食べてほしいものはありますか?
内田オーナー
やっぱり、ブルーベリーを使ったメニューですね。中でも、ブルーベリージュースとブルーベリータルトの組み合わせはおすすめです。
「ブルーベリー尽くしですね」と驚かれることもあるんですが(笑)、自分としては「これが一番おいしい食べ方です」と自信を持って出しています。
ジュースは、その年の実の状態を見ながら味を調整しています。甘みや酸味のバランスって、毎年少しずつ違うんですよ。タルトも、生地との相性を考えながら、ちゃんとブルーベリーの風味が感じられるようにしています。
どのメニューでも大事にしているのは、「素材の味をそのまま感じてもらうこと」です。余計なことをしない分、ごまかしがきかない。でも食べたときに、「これが本来の味なんだな」と感じてもらえたら、一番うれしいですね。

津田
ブルーベリーづくりで、大切にしていることは何でしょうか?
内田オーナー
最近はポット栽培が主流なんですが、うちは昔ながらの“地植え”にこだわっています。
もちろん管理は大変ですし、天候にも左右されます。でも、福井の土に根を張って、自然の雨や光を受けて育ったブルーベリーには、やっぱり違いがあると感じていて。
土の中にはミミズも虫もいますし、目に見えない微生物もいる。そういう環境全部がつながって、味になっているんじゃないかなと思うんです。
効率だけを考えれば別の方法もあるんでしょうけど、「どんな場所で育ったか」も含めて価値だと思っているので、このやり方を続けています。
津田
異業種からのスタートだったそうですが、接客で意識していることはありますか?
内田オーナー
もともとは化学を専攻していて、下水処理や配管施工管理など、インフラ関係の仕事をしていました。お店を始めたのは24年前で、ちょうど子どもを授かった頃ですね。生活が変わる中で、「この場所をもっと活かしたい」と思ったのがきっかけでした。
ただ、最初は本当に接客が苦手で(笑)。お客さんと何を話せばいいのか分からなかったんです。
そんなある日、「今日はいい天気ですね」と声をかけたら、そこから自然と会話が続いて。特別なことを話そうとしなくてもいいんだな、とそのとき気づかされました。
それ以来、何気ない一言から始まる会話を大切にしています。飾らないやり取りの中に、その人らしさや、その日の空気が出る気がするんですよね。
今でも「おしゃれなお店ではないですよ」と笑ってしまうんですが、それでも「ここに来ると落ち着く」と言っていただけるのは、本当にありがたいです。
お店のまわりも、360度ぐるっと自然に囲まれていて、季節ごとに景色が変わります。その風景も含めて、ここで過ごす時間を楽しんでもらえたらうれしいですね。
最近は園内に季節の花も少しずつ植えていて、「来るたびに違う景色があるな」と感じてもらえる場所にしていきたいと思っています。

津田
地域との関わりについても教えてください。
内田オーナー
地域の活動にも関わっていて、芦原温泉駅で行われている地元商品の販売に商品を出したり、あわら温泉の旅館へブルーベリーソースを提供したりしています。
そういうつながりが少しずつ増えてきて、「あわら市全体でお客さんを迎えているんだな」と感じることも増えました。
地域の方との関わりが広がっていくこと自体が、日々の励みになっています。地元のものとして受け入れてもらえて、「いいね」と言っていただけるのは、本当にありがたいですね。
最終的には、住んでいる人自身がこの街を楽しいと思えていることが一番大事だと思っています。そういう空気感って、きっと訪れる人にも自然と伝わるものだと思うので。
津田
最後に、これから先大切にしていきたいことを教えてください。
内田オーナー
やっぱり「正直でいること」ですね。
無理によく見せようとしたり、できないことを大きく言ったりするんじゃなくて、自分が納得できるものを、そのまま届けていきたい。
おいしいものを、おいしいまま出す。言葉にすると当たり前なんですが、その積み重ねが、少しずつ信頼につながっていくんだと思っています。
おわりに
自然の恵みを、できるだけそのまま届けること。
そして、訪れる人との距離を急がず、何気ない会話を重ねていくこと。
「瑞香園」に流れているのは、派手な演出ではなく、日々を丁寧に積み重ねる空気でした。
福井の土に根を張って育つブルーベリーのように、人との関係もまた、ゆっくり時間をかけて育っていく。
そんな感覚を、この場所では自然と思い出させてくれます。
あわらを訪れたとき、景色を巡るだけではなく、その土地で暮らす人の声に触れてみる。
「この人に会いに行きたい」と思える場所があるだけで、旅は少し深く、豊かなものになるのかもしれません。
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