自然と人をつなぐ、あわらの花 ―移住夫婦が紡ぐ、環境にも地域にもやさしい農業―
2026.03.31
坂井平野に沈む夕日と、丘陵地をわたるやわらかな風。 その風景に惹かれてあわらへ移住し、環境にも、人にもやさしい花づくりを営むご夫婦がいます。 農薬に頼りすぎない栽培。土や微生物と向き合う丁寧な仕事。 けれど、その情熱は決して声高ではありません。 内にふつふつと燃える想いを抱きながら、どこまでも冷静に、そして楽しそうに自然と向き合っています。 温泉と果実のまち、福井県あわら市。 この土地で“花のある未来”を静かに、そして力強く育てているAtoji彩培園のお二人に、お話をうかがいました。
津田
あわらに移住され、花農家を始められました。この土地で暮らし、花づくりをする魅力や、移住して感じたご自身の変化を教えてください。
阿閉氏
妻の出身が福井県春江で、帰省のたびにこの地域を訪れていました。そのたびに目にしていた坂井平野に沈む夕日や、丘陵地の広がる風景が本当に美しくて、「いつかこんな場所で暮らせたら」と思うようになったんです。 実際に移住してみると、穏やかな自然の中で毎日仕事ができることが本当に贅沢だと感じています。 移住の際には、市役所の皆さんや地元農家の方々がとても温かく迎えてくださり、小さな農園の私たちにも役割を与えてくださいました。そうした人の温かさも、私たち夫婦がこの土地を選んだ大きな理由です。

津田
あわらの自然環境や人との距離の近さを活かして活動されていると思います。地域ならではの魅力や、ご夫妻ならではの関わり方を教えてください。
阿閉氏
あわらはコンパクトなまちなので、人との距離がとても近いです。市役所や観光協会、温泉旅館の方々が丁寧に関わってくださり、「一緒に地域を盛り上げよう」と声をかけてくださいます。 農地の環境も素晴らしいですね。丘陵地特有の水はけがよく肥料持ちのよい土壌、そしてパイプラインによる安定した農業用水。猛暑の年でも支えてくれる環境があります。 温泉旅館や個性ある飲食店も多く、農業と観光がつながる可能性を感じています。
津田
無農薬や食用花へのこだわり、育てる際の工夫や哲学についてお聞かせください。
阿閉氏
私たちは農業未経験からのスタートで、会社員を辞めてふくい園芸カレッジで研修を受けました。そこで知ったのが、一般的な農薬使用の多さです。 花は野菜のように洗うことができません。だからこそ「安心して手に取れる花を届けたい」と強く思いました。 その想いから、農薬をできるだけ使わない栽培に取り組み、切り花だけでなく、食用花やハーブへと広げていきました。飾るだけでなく、食べたり香ったりできる花を届けたい。それが私たちの願いです。

津田
環境に配慮した農業とは、具体的にどのような取り組みですか?
阿閉氏
自然と共存しながら続いていく農業を目指しています。特に意識しているのは3つです。
①薬剤に頼りすぎないこと 光防虫器や乳酸菌資材を活用し、殺虫剤や殺菌剤の使用をできる限り減らしています。 ②草原環境を守ること 除草剤は使わず、草刈りで管理しています。雑草は益虫や微生物の環境を守る存在でもあるからです。
③土を育てること 土壌分析を行い、必要な分だけ施肥。堆肥を活用し、過剰施肥を防いでいます。 自然に負荷をかけず、未来につながる農業を続けたいと思っています。
津田
ワークショップや体験会の中で、「やってよかった」と感じた瞬間を教えてください。
阿閉氏
自然と共存した農業を続けるために、栽培だけでなく販売や体験の場も大切にしています。 規格外の花材も無駄にせず、ドライフラワーやドライハーブとして商品化しています。ワークショップでは、自家栽培の花を自由に使っていただき、「香りが全然違う」「花に触れるのが楽しい」といった声を直接聞けることが何より嬉しいですね。 また、花屋さんや旅館、セラピストの方々から「育て方が見えるから安心」と言っていただけることもあります。作り手の顔が見える関係性は、花の価値をより深く伝えてくれると感じています。
津田
日常に花を取り入れる楽しさを、どのように感じてほしいですか?
阿閉氏
花の消費は減っていますが、嫌いになったわけではないと思うんです。「どう飾ればいいかわからない」「難しそう」と感じているだけだと思います。 花には視覚的な癒しや、香りによるリラックス効果があります。ほんの少しあるだけで、空間も気持ちも変わります。 まずは触れてみること、体験してみること。そこから花がもっと身近になってほしいですね。

津田
今後挑戦したいことや、理想の農園・まちづくりの姿を教えてください。
阿閉氏
花だけでなく、あわらの梨や栗、メロン、トマトなどの果実とも連携し、産地全体の魅力を高めていけたらと思っています。 そして、あわらの大きな資源である温泉旅館。旅館に花を飾っていただき、宿泊者が農園を訪れる。花・フルーツ・温泉がつながる体験ができたら素敵ですね。 地域の生産者、旅館、飲食店、学校、行政と一体になって、あわらの豊かさを届けていきたい。 地元の方が気軽に立ち寄り、訪れた人が「あわらっていいね」と感じていただける。 そんな場所を、花を通して育てていきたいと思っています。
おわりに
移住してあわらで花農家を営むご夫婦は、環境にも人にもやさしい花づくりを軸に、地域や人々とのつながりを大切に活動されています。 静かな語り口の中に、あわらという土地への深い愛情と、未来への確かな想いが感じられました。 坂井平野の夕日、丘陵地をわたる風、そして人の温かさ。 その中で咲く花は、きっとこのまちの豊かさを、静かに伝えてくれる存在なのだと思います。
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