“世の中に感幸を” ─ あわら温泉美松が取り組むSDGsと地域活性化 - あわら市観光協会

“世の中に感幸を” ─ あわら温泉美松が取り組むSDGsと地域活性化

2025.02.21

あわら市内の宿泊施設・飲食店などの知られていないお話を、 取材させていただきインタビュー形式で紹介していきます。 第1回目は、あわら温泉の宿泊施設「あわら温泉 美松」さんの 取締役営業統括部長の前田健吾氏に話をお聞きしています。 ✻インタビューはあわら市観光協会の津田です。

津田
「あわら温泉美松」では、さまざまなSDGsの取り組みを行っていらっしゃると伺っています。まず、10年以上前から実践されている「循環型社会の構築」に向けた森の間伐材を利用したバイオマスエネルギーによる熱供給について、お話をお聞かせください。

前田健吾氏
当施設は「あわら三国もりもりバイオマスエネルギー事業」で整備し、化石燃料の代替として県産の間伐材を活用する事業を推進しています。具体的には、坂井・あわら地域の森林から排出される間伐材を加工した木質チップを燃料とし、ボイラーで燃焼させることで熱を供給しています。
この仕組みにより、従来使用していた重油の消費量を大幅に削減でき、電気代の抑制にもつながっています。また、木質チップの管理は遠隔操作によって専門の管理会社が行うため、重油などの発注業務の負担も軽減されました。
さらに、カーボンニュートラルな資源を利用することで、CO₂排出量の削減にも寄与しています。この地域は温泉地であると同時に森林資源も豊富で、加工を担う森林組合も近いため、原料調達から熱供給、消費までを地域内で完結する「地産地消」のシステムが成り立っています。その結果、輸送時のCO₂排出も最小限に抑えられています。

津田
このシステム(ボイラー)を導入しているのは、あわら温泉では現在2軒のみと伺っていますが、今後すべての施設が導入するとなると、需要と供給のバランスも重要になりますね。また、施設見学を通じて子どもたちへの環境教育も行われているそうですね。

前田健吾氏
県内外から、循環型社会の仕組みを学びたいと訪れる子どもたちもいます。彼らが大人になったときに、環境について深く考え、行動するきっかけになればと願っています。

津田
おかげさまで、協会としても見学の受け入れ窓口を担当していますが、環境学習の一環として非常に高く評価されています。他にも取り組まれている活動があれば、ぜひお聞かせください。

前田健吾氏
カーボンゼロの取り組みとして、海や森の資源を守る観点からプラスチックアメニティの削減にも力を入れています。具体的には、客室に常備していた歯ブラシ・くし・かみそりなどのアメニティを、必要なお客様に必要な分だけご利用いただく方式へと変更しました。これによって、不必要な廃棄や、設置などの業務が減少しました。これによって、不必要な廃棄や、設置などの業務が減少しました。

津田
お客様への周知にはご苦労もあったのではないでしょうか?

前田健吾氏
導入当初はいろいろと課題もありましたが、お客様にも次第にご理解いただけるようになりました。今後も旅館として、この取り組みの意義を伝えていきたいと考えています。最終的には、自然に還る素材、例えば竹や木などを活用し、より環境負荷の少ない選択をしていきたいですね。

津田
お客様にとって快適な環境を整えることも重要ですが、従業員の方々にとって働きやすい環境づくりにも力を入れていると伺いました。

前田健吾氏
生涯学習の一環として、学びの機会を評価制度に取り入れ、会社への貢献につながる資格取得の支援や補助制度を設けています。また、福利厚生の一環として、大津屋(オレンジボックス)での購入割引や、ポーラのサービス割引なども導入しています。従業員の約7割が女性ということもあり、働く女性を支援する制度にも力を入れています。

津田
とても手厚いサポートですね。これは人手不足への対応として始めたのですか?

前田健吾氏
人手不足も一因ではありますが、それ以上に、これまで十分に目を向けてこなかった部分を手厚くすることで、従業員が気持ちよく働ける環境をつくることが大切だと考えています。従業員の笑顔が増えれば、それは自然とお客様にも伝わりますし、良い循環が生まれると思っています。
また、全国の指定温泉施設に特別料金で宿泊できる制度を導入したり、子育て世代が安心して働けるようキッズスペースの設置も予定しています。さらに、繁忙期(お盆や年末年始)や病気の際にも安心して働ける環境づくりを進めています。もちろん社員寮も完備していますよ。

津田
充実したサポート体制ですね。安心できる環境があれば、心に余裕が生まれ、人にも優しくなれますよね。そんな美松さんの理念を教えていただけますか?

前田健吾氏
当社は、地域に根ざした企業を目指しており、企業理念は「世の中に感幸を!」です。まちのにぎわいがあり、発展してこそ「あわら温泉」があると考えています。そのため、地域の祭りやイベントにも積極的に関わり、従業員を応援に派遣したり、夏に開催される「あわら湯かけまつり」では最も多くのお湯を提供しています。

津田
イベントといえば、昨年開催された「竜王戦」では、まち全体が盛り上がりましたね。

前田健吾氏
竜王戦は地域の皆さまの協力があってこそ実現しました。対局会場となった弊社だけでなく、前夜祭、大盤解説となった会場施設、勝負めしを提供する飲食店など、まち全体で盛り上げることができました。経済効果はかなり効果があったと聞いており、誘致までには時間と労力がかかりましたが、それが報われたと感じています。

津田
そして、2月にはバスの共同運行の実証実験も始めてると伺いました。

前田健吾氏
はい。持続可能な温泉地づくりの一環として、これまで各旅館が個別に行っていた芦原温泉駅からの送迎を共同運行することで、利便性向上と環境負荷の軽減を目指しています。この取り組みの実証実験を2月いっぱい行い、結果を検証した上で、さらなる共同化やエリア全体の交通計画の策定に活用する予定です。

津田
新しい取り組みを次々と実行される姿勢が素晴らしいですね。その原動力は何でしょうか?

前田健吾氏
地域の未来を受け継ぎ、発展させていくことです。まちが元気になれば、市民が元気になり、住む人が誇りを持てる。そうすれば、訪れる人にもその魅力が伝わります。
このまちで生まれ育った方々も、これからの世代の人々も、「このまちに生まれてよかった」と思えるように、私たちは取り組みを続けています。そして、訪れる方々にも「あわらが好きだ」「また来たい」と思ってもらえたら、それが何より嬉しいですね。

津田
本当に素晴らしいお話をありがとうございました。あわらの方々は、熱い思いをあまり表には出しませんが、お話を聞いてみると本当に「あわらラブ」の方が多く、心が温かくなります。私も仕事柄ではなく、単純にこのまちが、これからも多くの人に愛される場所になればいいなと願っています。